一龍陶苑の画像

「現状維持は衰退」ニーズを取り込む変幻自在の陶器 【一龍陶苑】

今回は長崎県の波佐見焼窯元である株式会社一龍陶苑の一瀬さんに、時代のニーズを積極的に適応し、変化し続ける波佐見焼の魅力についてお伺いしてきました。

創業から現在までの経緯を教えていただけますか。

弊社一龍陶苑の創業は学芸員の方の見立てによると江戸後期には存在しているとの事。
180年以上の歴史を有しており現在7代目となります。

私自身は大学卒業後、焼き物の専門学校を経て、陶器の道に入りました。
焼物の世界において窯元の立ち位置はある種伝統芸能の世界に近く、家業を小さい頃から見ていたので「次はお前だよ」というような雰囲気がずっとありました。

周辺大人の『幼少期からの刷り込み』が功を奏し波佐見焼の道へ進むことを考えていたのではないでしょうか。。

今となっては、一龍陶苑や波佐見焼を次世代に繋げていくのが自分の使命だと思っています。

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これまでにあった苦労や印象的なエピソードを教えてください。

元々地元波佐見町は隣町の有田焼と同じく400年以上の歴史を有し庶民の器を大量生産する焼物産地として、代々有田焼の名称で全国に流通しておりました。
ところが15年ほど前に、今で言う産地表示変更問題が突然降って沸いてきまして、自社商品が有田焼の名称を使えなくなる事態になってしまい陶器業界が大きくシフトする動きがあったことです。

全国ブランドの有田焼から突然、当時無名であった波佐見焼となったことで、窯元の商品を取り扱う商社さんが大打撃を受けました。

当然の如く大幅な受注減。ブランド力の凄さとその影響力の大きさを痛感した次第です。

そこからは試行錯誤でしたが、ちょうど同時期に波佐見焼振興会を基に商社・窯元一緒に参加し始めた「東京ドームテーブルウェアフェスティバル」等のPR活動を通して転換を感じることとなりました。

現在でも国内最大級の焼物イベントですが、初参加当時は後発組だったこともあり、メイン会場から離れた場所での展示販売です。他産地ブースは沢山のお客さんで溢れているのに私達長崎波佐見の所だけはスカスカです。

お客さんが来ないのでする事がありません。
その場で知名度調査を兼ねたアンケートを取ることにしました。
やはりと言うか波佐見焼自体を知っている方はほとんどおらず、「これなんて読む地名ですか?」「どこにあるんですか?」というような回答さえありました。名前も聞いたことのない産地の商品をエンドユーザーさんが購入する訳が無いですよね!

その後、波佐見焼に携わる関係各所がそれぞれの持場で精力的にPR活動を続けてきました。ようやく自分たちの活動が認知され始めたと実感出来るようになったのはここ数年です。

波佐見焼自体この業界的にいち早くネット関連・販売に取組んだ事も変化の1つでしたね。
時代のタイミングも良くて、意図したわけではないのですが、SNSなどでも上手く反応・拡散する流れに乗れた感じでした。

こういった話題になりやすい事も、波佐見焼が時代のニーズを捉え変化に柔軟に対応している証ではないでしょうか。

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そのような中で御社もいくつかブランドを持たれているかと思いますが、自社ブランドを立ち上げていく中での想いや特徴などはございますでしょうか?

自社オリジナル商品は15年前から始めたのですが、当初はお客様のニーズが分からないので、お客様に聞くしか手立てが無く、お客様の要望に沿う商品開発でした。

例えば、しのぎシリーズは最初1品しかなかったのですが、お客様が求めるアイテムを一年に数点ずつ増やして行ったんです。

お客様の評判が高くなり作り手として手応えを感じて来てからは「こういう風なシチュエーションでこの商品を使ってみたらどうですか?」というような提案型に変わってきました。

自分たちがどれだけ良いと思っても売れなければ自己満足でしかないので、お客様の実際の声からニーズを想定し提案していく事にこだわっています。
1人として同じ生活を送っている人はいないですし、ライフスタイルの変化に敏感で今の自分の生活を大事にする感性豊かな女性(人)を想定した結果。「カジュアルリッチを目指す波佐見焼」という共通フレーズも出てきました。。。

ちょうど今は次の転換期で、これからどのようなブランド戦略を行っていくかを考えているところです。
個人的な考えですが「焼物の器」とは言えアパレル業界とも相通じるものが有るのではないでしょうか。
基本は抑えながらも多少はトレンドの流れを読みながら変化し続ける事が大事かと思います。。

非常に高いマーケティング的・ビジネス的な視点を持っていらっしゃいますが、どういった経緯から得たものでしょうか。

先ほど申し上げた「大量生産」と「時代のニーズ」がマッチしなくなった業界の変換器に四苦八苦してきた時期がありました。そこから、変わらざるを得ない状況に追い込まれたのが大きなきっかけでしたね。

試行錯誤する中で、ネット販売もそうですが、SNSに適した映える器や新形態のふるさと納税など、様々な変化をチャンスとして取り入れてきました。

波佐見焼のブランド力向上=自社ブランド構築の流れは相乗効果的にも常に意識しています。

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ネット販売はいつ頃から開始したのですか。

ネット販売を開始したのは7、8年前で、本格的に販売数を増やしていったのは5年ほど前からです。

ネット販売もそうですが、当社では新しい取り組みに力を入れています。
波佐見焼は歴史的にも製造・販売が分業システムで成り立ち発展してきました。

その流れは大事にしつつ、商品開発における情報収集としての側面は大きいですね。
商品レビューに寄せられるシビアな意見やお褒めの言葉は社内共有において大きな気づきやモチベーションアップに繋がっています。

現状で認識されている課題はありますか。

後継者不足です。これ一択ですね。

先程も述べましたが波佐見焼の特徴に分業制があります。
陶土、生地屋、型屋、窯元、商社など分業生産の流れの中で、そこに従事する或いはその事業を継承する後継者が年々少なくなってきています。

熟練技術者の高齢化を筆頭に農業や漁業など他産業でも見られる状況が陶磁器分野でも大きく現れています。

後継ぎの子供達の都市部への就職や安定した職に着く流れは、なかなか止められません。このままだと産業自体がなくなるんじゃないかと危惧しています。

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これからの貴社のビジョンを教えて下さい。

もっと波佐見焼を全国的、世界的なブランドにしていく事ですね。

波佐見焼ブランドを高め、魅力的な職・産業に育てていくことが重要ですね。
活気のある地場産業として広く認知される事。創造性豊かで可能性がある土壌こそ若手職人や他分野からもそこに魅かれ目指す人が入ってくる。

この仕組み作りを目指しながら、次世代に必要とされる一龍陶苑ブランドを生み出していきたいものです。

物創りと観光を融和させたクラフトツーリズムや日本酒や日本食等は海外でも注目を集めています。
他業種とも活発に交流していきたいですね。
次世代につながる面白い試みができるのではないかと思います。

一瀬さんにとって、波佐見焼・モノづくりとは何でしょうか。

波佐見焼とは何ですか?との問いに『その時代時代のライフスタイルに寄り添い変化し続ける器です』と答える機会が増えてきました。

人は一生に何食食べるのでしょうか?食の隣には器が有ります。
笑顔の家族団欒や楽しい懇親会の席には料理を引き立てる器は欠かせません。

器作りを笑顔作り楽しみ創りと認識するだけでも「可能性に満ちて」います。
冠婚葬祭は勿論、祝い事やイベント時の贈答品として人生の節目節目に関わる品を提供でき喜ばれた時は作り手冥利に尽きますね。


(インタビュアー)
今回は、波佐見焼の世界について、教えていただきました。
一瀬さん、ありがとうございました。

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COMPANY INFO

株式会社一龍陶苑

事業内容

陶磁器の製造および販売。

所在地

長崎県東彼杵郡波佐見町中尾郷975

設立年月日

1953年7月4日

代表者

一瀬 龍宏

企業URL

https://www.1ryu.jp/

従業員数

46名

上場区分

非上場

主要顧客

一般顧客

外資区分

非外資